成績のことを書いたらもう大学時代が終わった気分になってしまった。以
下、時間にそっていくことはやめて、思いつくエピソードを述べてみたい。
大学時代に両親が亡くなった。授業に出ることをやめて、バイトばかりし
ていた時期に家を出た。家といっても4畳半の部屋を家族で4部屋借りて住
んでいたから家族と一緒に暮らすのをやめた、といったところである。
入学して1年目の11月に品川区の鮫洲にあった大学の寮に入った。寮費
は月額2〇〇円だった。これに光熱費と食費を合わせて一月5〇〇〇円もあ
れば生活できた。まったく夢のような話である。
私は東京に住んでいたが、住宅に困窮していると申請すれば許可された。
特に面接などはなかったように思う。学生課に書類を出して許可が下りた。
引っ越しはタクシーで運んだ。せんべい布団と学用品が少しだけだった。
ここに翌年の3月までいた。仕事をバイト時代に述べた工事現場のコーキ
ング工事に変えたのとはぼ同時に、友人Aの家に下宿した。彼は私と高校時
代同級だった。彼は2浪して和光大学の芸術学科に入った。都立大学に行か
なかった代わりに和光大学には良く通った。Aを通して何人かとは知り合い
になった。
そんな関係でかれのところに転がり込んだのだった。食費込みで月2万円
ほど納めたと思う。なかなか快適な生活だった。4階の調理室の廊下に当時
のことを書いたエッセーが張り出されているはずのなのでひまな人は見て下
さい。
大学2年目の夏の終わり頃、王子福寿荘から連絡があった。父が入院した
というのである。肝臓を悪くしているということだった。
晩年父は小さな電気会社につとめていた。富士電気設備工業株式会社とい
う。富士電気というと大メーカーであったが、無関係である。朝早く起きて
ご飯を炊き塩分の濃いみそ汁を作って勤めに出ていた。楽しみといえば会社
の帰りに寄るパチンコで煙草を取っていた。
煙草はしんせいで両切りの安い強いものである。玉が出たときはおみやげ
にチョコレートを持ってきたりした。そのころ会社の仕事机にはワンカップ
が入っていたというから昼間でも酒を飲んでいたのかも知れない。酒は弱い
方だった。酔うとごろりと横になりすぐに寝てしまった。
病院に行くとすでに話が出来ない状態だった。ただ見れば分かるらしく私
を見て、ガーガーとけもののような声を出した。肝臓の機能が弱って体に水
が溜まっていた。父の手を握ると柔らかく膨らんで熱く脈打っていた。もう
長くない、というので私は福寿荘に呼び戻されたのであった。
父の死んだのは1971年の10月8日でこの日は3年前に新宿騒乱事件
のあったときである。集会とデモが予定されていたが、私は参加する気はな
かった。
滝野川病院の狭い個室に家族が集まった。死亡時刻は夕方の6時27分だ
った。容態が急に悪くなって、廊下で叔父が医者に「できることはなんでも
してください」と頼んでいた。私は妙に冷たかった。どうせ死んでしまうの
だから無駄なことではないだろうか、と内心思っていた。
それを口に出すのはためらわれたから黙っていた。なんだかそういうこと
を他人の医者に頼むのは恥ずかしいことのようにも思った。私は枕元の椅子
に座って父の頭を見ていた。
父の顔は息を吐くと横になり吸うと上を向いた。その繰り返しがだんだん
とゆっくりになっていった。この動きが止まった時が死ぬときだ、と思って
じっと見ていた。もう顔が上がらないのではないか、と思うとまたゆっくり
頭が動くのだった。
そうして遂に父の頭は上がらなくなった。ベッドの足下にいた医者が「ご
臨終です」と言って腕時計を見た。
99.9.11
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初出:F42通信 1999.9.
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あとがき:この自伝シリーズは学級通信に掲載していた。学級通信を発行し
ている担任は何人かいた。そして互いに交換したりしていた。家庭科の先生
とも交換していて、その先生から、家庭科の研究誌に何か書かないかと打診
を受けた。それが「私の住宅事情など」である。調理室の廊下に拡大コピー
した張り出した。家庭科の先生は私の貧乏話を教材にしていた。日本の生活
はこのように変わってきた、という話の材料にしたのである。世の中はリン
クで成り立っているんだなあ、と思った。
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自伝シリーズ NO.64 私の大学時代1 (7) 2001.11.17 発行
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発行者:ぱーこ pahko-s@parkcity.ne.jp
発行所:ぱーこシティ http://www.parkcity.ne.jp/~pahko-s/
バックナンバーは、ぱーこシティにあります。
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配信元:『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000042938)
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