逮捕者の出たのは6・15の樺美智子追悼集会で、これは日比谷の野音が
集合場所だった。日比谷公園の緑が強く匂っていた。梅雨空から小糠雨が降
りしきっていた。
私は都立大学の隊列の中にいた。隣には化学科のHという新入生がいた。
特に政治的な主張もなく、正義感から参加しているようだった。確か北海道
の出身であった。こいつなら友達になれるかもしれない、と思っていた。
理科系の学部からの参加者は少なく、人文学部の参加者が多かった。彼ら
は新入生だけでHTSという旗まで作って意気揚々としていた。何度かデモ
に行くうちに挨拶する程度の関係はできたが、私は工業高校卒でもあり、文
系のやつらに変な劣等感があった。それでうち解けて話すというわけにはい
かなかった。
デモが国会議事堂前にさしかかった時、前の方からジグザグデモになった。
そこで機動隊の装甲車から「学生諸君、このデモ行進は禁止されています。
ただちにやめなさい」という独特のイントネーションの警告があり、そのう
ち「総員逮捕!」と叫んで、機動隊が隊列の中に飛び込んできた。
ジュラルミンの盾で殴られたり、こての付いた肘で小突かれたり、安全靴
で蹴られたりした。隊列はばらばらになり、私の隣にいたHは機動隊に腕を
取られて捕まった。私は辛くも逃げ出すことができた。
地下鉄霞ヶ関までくると、仕事帰りのサラリーマンなどがいて、あたりの
様子は日常そのものだった。私は雨を吸って重くなったジーパンにTシャツ
の情けない姿で荒い息をしながら地下鉄に乗った。
何日かして大学に行くと、Hは捕まったというウワサだった。デモに行っ
て逮捕されたら、3日10日10日と合計23日拘留されて、その期間に起
訴されなければ釈放されるということだった。
その間、口をきいてはいけない、黙秘しますと言い、弁護士を呼んでくれ、
と主張し続けろ、とマニュアルにあった。救援対策センターの電話番号は5
91−1304(獄入り意味多し、と覚える)である。
Hは23日たって出てきた。全共闘の集会では、ノンセクトのところでな
く、白い革マルのヘルメットをかぶっていて、我々の方には見向きもしなか
った。逮捕拘留が一気に彼の運動への参加状態を変えてしまったようだった。
確かに「獄入り、意味多し」だったわけだ。
私は、自分だけ逃げおおせて、なんだか後ろめたかった。彼の方でもノン
セクトは相手にしなかったから、それ以上つき合いは進まなかった。その後
彼は大学を中退しヤマギシ会に入りどこかで農業を行うようになったという
ことだった。
70年安保と呼ばれる政治の季節に私がデモに参加したのは6・23の集
会が最後であった。安保条約は当然のように再締結され、学生運動の主なテ
ーマは大学「紛争」後の大学改革に移っていった。後は処分撤回闘争、三里
塚国際空港反対闘争、などが叫ばれていた、と記憶する。
世界同時革命を主張する諸君は、非合法活動に突入していった。明治公園
で行われた集会で始めて赤軍派を見た。我々が腕を組んでデモ行進をしてい
る中を、共産同赤軍派の旗を掲げ白い軍手をして平然と軍隊のように行進し
ていた。ちょっとヤバイ感じがした。
京浜安保共闘と赤軍派とが浅間山荘事件を起こしたのは、確か翌71年の
4月のはずである。私はその時はバイト時代に述べたように、建築現場の仕
事を始めていて政治的な集会とは無縁になっていた。
大学に入学して自分の居場所もなく、政治的な理念や主張もなく一人でデ
モに行って一人で帰ってくるという参加(と呼べるかどうか)状態の時期に
見聞したことを2,3付け加えておきたい。
99.6.2
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初出:F42通信 1999.6.
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あとがき:私は音痴なので、カラオケは嫌いだ。それでめったに行かない。
それでも、親しい人たちと飲み会の2次会でなだれ込むことはあった。定番
の歌を決めておけば、困らない。7,8年前は45歳の地図をガナっていた。
爆風スランプの歌で語りが入る。それから、およげたい焼きくん、はひらけ
ポンキッキで聞いていたから、なんとか出来る。声が合っている、と妻が公
認した唯一の歌である。そして、バンバンの「いちご白書をもう一度」。こ
れは最後にやる。松任谷由実作詞作曲。原曲にはない語りを間奏の時に入れ
る。「学生諸君!こちらは第4機動隊です!君たちのデモ行進は禁止されて
います!ただちにやめなさい!ただちにやめなさい!ヤメロ−!総員逮捕ー
ー!」というのと総括集会の演説のようなものをやる。大抵酔っぱらってい
るから、ロレツが回らない。同席の若い人たちはオヤジがしょうがねえなあ、
という感じである。最近はカラオケに行くような付き合いはない。路地裏の
薄暗がりに秋の風、といった心境である。
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自伝シリーズ NO.61 私の大学時代1 (4) 2001.10.27 発行
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発行者:ぱーこ pahko-s@parkcity.ne.jp
発行所:ぱーこシティ http://www.parkcity.ne.jp/~pahko-s/
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